家族信託は所有権を、「財産権(財産から利益を受ける権利)」と「財産を管理運用処分できる権利」とに分けて、後者だけを子どもに渡すことができる契約です。
これにより、所有者である親の認知症などの影響受けずに、子どもが信託された財産の管理運用処分ができます。
家族信託の六つのメリット
1.財産管理が委託者の判断能力に影響されない
家族信託というキーワードが広まってきた背景には、親の認知症による財産凍結の問題があります。親が認知症などになり、契約をすることが難しくなると、預金を下ろすことができません。また、自宅などの不動産を売ることもできません。
認知症が悪化した後にも利用できる対策として成年後見制度がありますが、親族が後見人に選ばれる可能性が低いこと、財産の管理運用処分が制限をされることがあり、利用しづらいという声を聞いています。
成年後見制度以外で、親が認知症などになったときに、その影響を受けずに子どもが代わりに財産を管理できる制度の一つとして、家族信託が広まってきました。
財産の名義を子どもに変えられること、広い裁量を与えられることが家族信託の大きなメリットです。
家族信託のメリットとして、遺言効果があります。これは家族信託契約の中に、次に財産権(財産から利益を受ける権利)を継がせる人を定めておくことによって、法律上有効となり遺言を残すことと同様の効果が得られます。
また、次の後継者(2番目)だけでなく、次の次の後継者(3番目)以降を決めることもできます。
これは遺言にはなく、家族信託でのみできることです。
家族信託が有効なケースの一つとして、親から受け継いだ収益不動産が兄弟での共有になっているケースがあります。
例えば、収益不動産を兄弟ABCの3人で、それぞれ3分の1ずつ所有している場合です。これからも不動産を貸して家賃収入を得たいと考えています。しかし、AまたはB、Cのうち1人でも、認知症などが原因で悪化し契約能力がなくなってしまうと、収益不動産の全体が凍結してしまう危険があります。新しい入居者との契約をする場合や、古くなってきたので大規模な修繕を行う場合には所有者全員の意思が必要になるためです。そのため、高齢者同士の共有はとても危険です。3人で共有の場合にはリスクが3倍になると言えます。そこで、家族信託を活用しBCの持ち分をAに信託をすることで、BCの契約能力喪失の影響受けずに、A1人で収益不動産の経営をすることができます。そして得た家賃収入は、A BCの全員が得ることができます。
家族信託では、成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができます。成年後見制度では、本人の財産を守ることに重点を置かれます。言い換えれば、本人の財産を減らさないことです。
例えば、収益不動産の経営をしている大家さんや会社のオーナー兼社長の場合に、将来に向けた投資が経営には必要になります。
一方で、将来儲かるかどうかわからない投資に対しては、成年後見制度では原則、実行できません。
つまり、攻めの経営が制限されるということです。万が一、損失を出すかもしれないからです。
家族信託の場合には、子どもに大きな裁量を与えることができます。元の所有者(委託者)が財産管理の方向性を決めて、その方向性に沿って、子ども側は大きな裁量をもって柔軟に財産の管理運用処分をすることができます。
一方で、受託者である子どもが大きな権限を持つので、子どものことを信頼できないと信託をすべきではないと思います。
既述した遺言効果のもう一つの側面ですが、家族信託契約により承継者を決めておくことで、相続が発生した場合の遺産分割協議が不要になります。
これは大きなメリットです。遺産分割協議では、相続人全員で話し合い誰が何を相続するのかを決めなくてはいけません。しかし、相続人内で意向が揃わなかったり、相続人の1人が認知症等により話し合いをすることができない場合には、相続の手続きはスムーズにできなくなります。
渡す側の親が財産の承継について決めておくことは、認知症や相続争いによる遺産の凍結を防ぐための、最も有効な方法です。
「受託者である子どもが破産をしてしまった場合に、信託した財産が差し押さえられるのか?」という質問を受けることがあります。
答えは、できません。
信託した財産は、受託者である子どものものではなく、あくまで財産権を持っている親のものです。そのため、子どもの債権者は差し押さえができないルールになっています。これを倒産隔離機能と呼んでいます。
ただし、信託をしておけば受益者である父親の債権者から信託した財産を守れると聞くことがありますが、これは誤りになりますのでご注意ください。